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  • 2021/08/31公開

IFRS導入時における決算期の統一

日本企業の多くが3月決算を採用していることから、IFRS導入時の課題として、いかに親会社の決算期と子会社等の決算期を統一するのかという問題があります。IFRS導入時における決算期の統一に関する実務的な課題と対応方法について見ていきましょう。

 目次

✓ IFRSにおける決算期差異の対応は?
決算期の統一は必ず強制されるのか?
決算期の統一を巡る監査上の問題は?
仮決算による対応方法は?
✓ IFRS経理体制の強化は必要か?

IFRSにおける決算期差異の対応は?

日本基準では、子会社の決算日と連結決算日の差異が3か月を超えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことができます。ただし、この場合には、子会社の決算日と連結決算日が異なることから生じる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致について、必要な整理を行います(連結財務諸表に関する会計基準第16項)。

一方でIFRSでは、親会社及び子会社の財務諸表は、同じ報告日としなければなりません。これらの期末日が異なる場合、実務上不可能な場合を除き、子会社は、連結のために、親会社の財務諸表と同一現在の追加的な財務諸表を作成することになります。もし実務上不可能な場合は、子会社の直近の財務諸表を連結することになりますが、差異は3カ月を超えてはなりません。異なる期末日(3カ月以内)の間に生じた取引や事象のうち、連結外取引を含む重要な影響を及ぼすものについて修正しなければなりません(IFRS10.B92B93)。この点、日本基準が「連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致」のみ必要な整理を行うことに留意が必要です。

決算期の統一は必ず強制されるのか?

ところで、実務上不可能な場合とは、どのような状況をいうのでしょうか?実務上不可能な場合とは、「企業がある要求事項を適用するためにあらゆる合理的な努力を払った後にも、適用することができない場合(IAS1.7IAS8.5)」を意味しますので、実務上不可能であることを立証するハードルは相当高いことに留意が必要です。しかし、「財務報告に関する概念フレームワーク」に記載されている通り、IFRSにも重要性の概念が存在しますので、実務的には重要性の判断で決算日を統一するかどうかを判断する方がスムーズに整理できる可能性があります。重要性の適用にあたっては、子会社の規模等の定量的な数値基準及び定性的情報によって総合的に判断することが考えられます。

また、IFRSでは、決算日の統一は子会社だけでなく、関連会社も同様に求められます(IAS28.3334)。しかし、タイムリーな決算資料の入手に関して、子会社よりもハードルが高くなるケースが多いと思われますので、入手可能な直近の財務諸表に加えて、親会社の決算日までの重要な取引や事象を把握する仕組みを整備する必要があると思われます。

決算期の統一を巡る監査上の問題は?

決算日の統一問題がクリアできたとしても、なお実務上の課題は残ります。例えば、現地の子会社が現地の監査人によって監査されている場合、監査人の監査報告書が発行されるタイミングが親会社の決算日程に間に合わないという問題が生じることがあります。実際にインドに子会社を有する企業の場合、インドでは会社法で3月決算が強制されているため、現地監査人の監査報告書の発行が日本の会社法の決算スケジュールに間に合わないといったケースが散見されます。重要な子会社に関しては、早い段階から、子会社の決算早期化や連結パッケージのスケジュールの見直しに着手するとともに、現地監査人に監査スケジュールの検討を依頼することが必要と思われます。

仮決算による対応方法は?

日本企業の場合、多くは3月決算ですが、海外企業の場合、インドのように会社法で3月決算が強制されている国を除き、12月決算が多いと思われます。中国やメキシコに関しては、12月決算が強制されていますので、子会社の決算日を変更することはできません。したがって、中国やメキシコに子会社を有する日本企業は、仮決算でしか対応できないと考えられます。なお、少数ではあるものの、最近では、海外子会社に合わせて親会社の決算日を変更するケースも出ています。これは、海外に多数の子会社を有するグローバル企業では、子会社側が決算日を変更するよりも、親会社側の決算日を変更する方が効率的な場合もあるためと考えられます。子会社側で仮決算する場合、まず仮決算の範囲を決定しなければなりません。仮決算を行う場合、現地での税務申告等の目的のため、通常の本決算も行われることから、現地での決算作業の負荷が増加することになります。一般的に現地の経理部門のリソースには限界があることが多いので、本社側にて仮決算の範囲を合理的に決めることが重要になってきます。また、会計監査も仮決算と本決算の両方に実施する可能性があることから、監査費用等のコストの増加についても留意することが必要です。

IFRS経理体制の強化は必要か?

現地のIFRS教育に関しては、連結決算プロセスをトップダウン方式で行うのか、ボトムアップ方式で行うかによって大きく違ってきます。本社の負荷を減らすため、現地からのボトムアップ方式で仮決算や連結パッケージの作成を行う場合は、IFRS導入時の指導・教育が重要になってくると思われます。これまで、本社の経理部と現地の経理部とのコミュニケーションが十分に行われていなかった企業の場合、IFRS導入を契機として、IFRS教育の徹底と、IFRSグループ会計方針の共有によるIFRS経理業務の深化が求められます。幸い、IFRSは世界各国で要求や容認、コンバージェンスが進んでいるため、グローバルでの人材確保は比較的容易であると考えられます。ビジネスの実態を理解している現場の判断を活かし、財務報告の正確性や効率性を高めるためにも、現地での経理体制の強化がIFRS導入では重要と言えます。

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監修

岡田 博憲
ひびき監査法人パートナー、アビタスUSCPA(米国公認会計士)、IFRS Certificate(国際会計基準検定)各プログラム講師

(おかだ・ひろのり)ひびき監査法人 代表社員 公認会計士
朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)、朝日アーサーアンダーセン株式会社、新橋監査法人を経て現職。上場企業の監査、アドバイザリー業務に多数従事し、IFRSの研修も実施。
日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 専門委員、日本公認会計士協会 中小企業施策調査会 中小企業会計専門委員会 専門委員、同協会 SME・SMP対応専門委員会 専門委員、IFAC(国際会計士連盟)中小事務所アドバイザリーグループ テクニカル・アドバイザー、国際会計研究学会会員。公認会計士。USCPA。

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